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仙台地方裁判所古川支部 昭和48年(ワ)54号 判決 1977年11月30日

原告

高橋盛

被告

有限会社北部運送

ほか二名

主文

被告残間重機および被告福原静治は連帯して原告に対し金三八四万五九九五円およびこれに対する昭和四八年八月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を被告残間、および同福原の負担とし、その余を原告の負担とする。

第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告) 被告らは連帯して原告に対し金九八〇万四四四九円およびこれに対する昭和四八年八月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

旨の判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(被告ら) 原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

旨の判決ならびに予備的に仮執行免脱宣言を求める。

第二請求原因

一  昭和四六年一一月二六日午前一一時一〇分頃被告福原は大型貨物自動車を運転中、秋田県雄勝郡雄勝村秋の宮字川井三〇番地先国道一〇八号線路上で側溝に転落する交通事故を起こし、同車助手席に同乗していた原告は右事故により左足関節解放性脱臼等の傷害を負つた。

二  事故の原因は、右事故現場が幅員も狭く、左にカーブする見通しの悪い道路であり、かつ雨のため路面が濡れていたのに被告福原は減速することなく、時速五〇キロの速度で進行したため、対向車とすれ違う際、左に寄りすぎた過失により、左方の側溝に転落するに至つたものである。

三  被告残間は被告福原を使用して運送業を営むものであり、本件事故は被告福原が本件大型貨物自動車に砂糖を積んでこれを運送する際発生したものである。

四  被告有限会社北部運送(以下被告会社という)は本件大型貨物自動車を所有し、被告福原を使用して運送事業を営んでいたものであるが、仮に然らずとしても、被告会社は道路運送法所定の営業免許を有しない被告残間のために、被告会社の名義を貸与し、被告会社名義で自動車の登録をなし、かつ、同名義で保険契約を締結したうえ、本件自動車の車体に被告会社名を表示するのを認めていたのであるから被告会社は本件自動車の運行供用者としての責任を免れない。

五  よつて被告福原は民法七〇九条により、被告会社および被告残間は自賠法三条または民法七一五条により、原告の蒙つた後記損害を賠償すべき責任がある。

六  原告の損害は次のとおりである。

(一)  病院関係費用(合計六〇万七三二九円)

1 雄勝中央病院入院費用 (四七万六三三四円)

右のうち保険請求額 二三万二三一一円

原告支払額 二四万四〇二三円

2 入院雑費 (六万三六〇〇円)

雄勝中央病院一二六日入院、古川市永野医院一九二日入院計三一八日、一日二〇〇円の割。

3 通院費その他 (六万七三九五円)

東北労災病院診断書料 五五九五円

原告入院転院費、および家族交通費 三万円

通院費(一日交通費一〇〇円、治療費五〇〇円の五三回分) 三万一八〇〇円

(二)  慰藉料 (二一二万円)

入院三一八日につき一日三〇〇〇円として九五万四〇〇〇円。

通院一六六日につき一日一〇〇〇円として一六万六〇〇〇円。

後遺症分として 一〇〇万円

(三)  休業補償 (一一七万四二三八円)

事故当日から昭和四八年四月一〇日(東北労災病院最終診断日)まで四九四日間、原告の一日の平均賃金二三七七円を乗じたもの。

(四)  後遺症による逸失利益(八四六万九二一六円)

原告の後遺症は等級七級に該当し、労働能力喪失率は五六パーセント、就労可能年数を二七年、その間の平均賃金を月七万五〇〇〇円としてホフマン式による。

(五)  控除 (二五六万六三三四円)

雄勝中央病院の医療費四七万六三三四円および後遺症分として二〇九万円を自賠責保険金から支払をうけた。

以上差引合計九八〇万四四四九円

七  よつて原告は被告らに対し連帯して右損害金九八〇万四四四九円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四八年八月五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告らの答弁

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の被告福原の過失は否認する。

三  同第三項は認める。

四  同第四項の事実は否認する。

五  同第五項の主張は争う。

六  同第六項の損害額を争う。但し、保険金給付の事実は認める。

第四被告らの抗弁

一  事故当時原告は助手席でフロントウインドウのダツシユ板に足を上げて居眠りをしていたので、被告福原はベツドに行つて寝るように再三注意したが、原告がこれに従わなかつたため、側溝の石垣に原告の左足が衝たり受傷したのである。

従つて、傷害の発生については原告にも過失がある。

二  原告は昭和四八年五月から松本タクシー株式会社に勤務し、月約八万円の収入を得ているので後遺症による逸失利益は否定すべきである。

第五抗弁事実の認否

一  抗弁一の事実は否認する。

二  原告が松本タクシーに勤務していることは認めるが、その月収は約六万円である。

理由

一  請求原因第一、第三項の事実は当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第六号証の一ないし七によると請求原因第二項の事実を認めることができる。

三  右各事実によると被告福原は民法七〇九条により、被告残間は民法七一五条によりそれぞれ原告が本件事故により蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

四  被告会社の責任について検討する。

成立に争いのない甲第六号証の二、証人遠藤守の証言、原告(第一回)および被告残間、同福原の各本人尋問の結果によると、被告福原は、警察における取調べの際には自己が被告会社の従業員であつて、本件事故トラツクは被告会社の所有である旨述べているけれども、右トラツクの真の所有者は被告残間であつて、同人は被告会社の名義を借りて保険契約その他の手続をしたことが認められる。

そして前掲証拠によると、本件事故トラツクには被告会社の名称を示す記載がなされていることが窺われ、被告会社は被告残間に対し、自己の営業名義を貸し与えて、これを利用させていたことが明らかである。

ところでこのような名義貸しが行われる場合、一般に名義を借り受けた者は名義貸与者に対して名義貸料を支払つたり、名義貸与者に何らかの便宜を与えるなどしてその事業に協力したりするなどの名義貸に見合う実質関係を伴う場合が多く、名義貸与者は右の実質関係を通じて車両またはその所有者の運行を支配し、運行利益を享けるべきものとされる。

しかるに本件においては、被告残間が被告会社に対して名義貸料を支払つていたとの事実はもとより、名義貸借の背後にある前記実質関係については、これを認むべき証拠が全くないのであるから、被告会社は単に名義を貸したというに止まる。

原告代理人は、被告会社が名義を貸与したことは事故の責任を負担する意向の表明にほかならない旨主張するけれども、このような表示行為責任または外観責任の理論は取引法上の原理であつて、これを自動車事故のような事実行為たる不法行為の領域に適用するものは相当でない。

従つて、被告会社は本件事故による責任を負担しない。

五  原告の損害について検討する。

(一)  成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第七、第一〇号証および原告本人尋問(第一、二回)の結果によると、原告が本件事故により雄勝中央病院に一二六日間、古川市永野医院に一九二日間入院し、その主張のように病院関係の費用として合計六〇万七三二九円の費用を要したことが窺われる。

(二)  休業補償については、成立に争いのない乙第九号証によると、原告の昭和四八年七月から同年九月までの総収入は一八万五〇〇〇円であり、一日平均二〇五七円であるから、その休業期間(四九四日)中の逸失利益は一〇一万六〇〇〇円(一〇〇円以下切捨)と計算される。

(三)  後遺症による逸失利益については、成立に争いのない甲第五号証の二によると、原告は本件事故により左足関節切断の傷害を受け、等級七級に相当する後遺症を残したことが明らかである。

しかし、原告が失つた労働能力については、現在も原告がタクシーの運転手として働いていること、および原告がその職場の同僚に比し約二割減の収入をえていることが原告本人の供述(第二回)により認められるから、原告はその後遺症によつて二割の労働能力を喪失したものと認むべきである。

そして原告の主張する月七万五〇〇〇円の平均賃金は控え目な基準とみるべきであるから、その二割即ち月一万五〇〇〇円、年間一八万円をもつて逸失利益の基礎とし、原告の職種からみて六〇歳まで(二四年間)稼働可能であるから、ホフマン係数一五・四九九七を乗じて二七八万九〇〇〇円(一〇〇円以下切捨)が後遺症による逸失利益となる。

(四)  慰藉料については、原告の受傷の程度、治療の経過、当事者双方の収入、事故後の原告の就職およびそれに関する原告の努力等諸般の事情を考慮して金二〇〇万円の慰藉料をもつて相当とする。

(五)  以上(一)ないし(四)の合計は六四一万二三二九円であるが、原告が自賠責保険金から二五六万六三三四円の給付をうけたことは当事者間に争いがないから、これを控除すると三八四万五九九五円となる。

六  被告らは原告が事故当時フロントウインドウのダツシユ板に足を乗せていた旨主張するが、この点については被告福原および原告本人の対立する供述以外に何らの証拠もなく、右各供述によつては被告主張の事実を認め難く、しかも、仮に原告がダツシユ板に足を乗せていなかつたならば本件受傷の結果を避けることができたかどうかも明らかでないから、被告らの主張は採用しない。

七  以上のとおり被告福原、同残間は連帯して原告に対し、金三八四万五九九五円およびこれに対する事故の後である昭和四八年八月五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告の本訴請求を右の限度で認容することとし、その余を失当として棄却し、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

なお、仮執行免脱宣言はこれを付さないこととする。

(裁判官 井上芳郎)

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